2006年05月31日

植物:糖が助ける花の枝分かれ

 植物を題材とした生物学の研究結果であるが、これは、生物界にみられる基本構造であるため、生物学だけにとどまらず、生物物理学および生命工学や複雑系生命学などの研究者にとってはとくに、有用な報告になるかもしれない。

 D Jackson らは、nature 誌 2006 年 5 月 11 日号で、トウモロコシの花軸の分枝がありふれた糖によって制御されている可能性について述べ、単純な代謝物が生物の成長、発達を左右することを明らかにしている。

Jackson らは、花が奇妙な枝分かれをする、古くから知られていたトウモロコシ変異体について研究を行い、枝分かれの原因となる遺伝子 RAMOS3 が、花のつく枝の出芽組織(分裂組織)に存在する酵素を産生していることを見出した。

  RAMOS3 のタンパク質は糖の一種であるトレハロースを修飾するが、この糖はどの生物界でもみられ、炭水化物利用や代謝制御に関わっている。

 トウモロコシなどの植物では、トレハロースが分裂組織の独自性を制御するための短距離シグナルとしても作用しているのではないかと Jackson らは考えているが、或いは RAMOS3 自体が他の遺伝子の活性を調節しているかもしれない。


 腋芽の茎頂分裂組織の発生運命に支配される花序の分岐は、作物の重要な収量形質となっている。

 分岐パターンの件かは花のつき方(花序)の多様性につながり、さらに種子数または収穫能力に影響を与えて作物の収量を左右する。

 分岐構造は、オーキシンやサイトカイン、カテノイド誘導体のような複数の成長因子によって制御される。

 トウモロコシの花序の分岐は 3 種類の RAMOSA 遺伝子によって調節されている。

 下記に「トウモロコシの花序の構造はトレハロースの代謝にかかわる酵素が制御している」ことについて報告された内容を示す。

参考文献:
nature Vol 441 | Issue no.7090 | 127-254 | 11 May 2006 | Letter p.227 / A trehalose metaboloc enzyme controls infloressence architecture in maize / ゴールド・スプリング・ハーバー研究所(米) N Satoh - Nagasawa et al.

 本論文では、RAMOSA 遺伝子のその 1 つである RAMOS3 ( RA3 )がトレハロース 6 −リン酸ホスファターゼをコードしており、腋芽の花序分裂組織を抱く不連続な領域で発現することを示している。

 遺伝学的データおよび分子データからは、RA3 は転写調節因子と考えられる RAMOSA1 ( RA1 )を介して機能を発揮すると考えられる、という。

 研究者らは、RA3 は腋芽の分裂組織に流入する糖シグナルを変化させることによって花序分岐の調節を行っていると提唱している。

 或いは、RA3 が RA1 の上流で作用することは RA3 自体の転写調節機能を有するという仮説を裏付けているのかもしれない、と述べていた。



 この見解については、これまで分子上での構造を研究を進めるにしたがって、ごくありふれた物質が、実はもっと緻密で小さな構造を独自にもっていることが多い、ということがわかってきているからのもので、見た目上の推測される見解と、可能性について述べられている。

 ただ、言えることは、それまで考えられていたような複雑な構造ではなく、例えば熱力学説明できるような、分子上では単純な形で表されており、量子力学でや量子化学で説明できるようなものであるのは、確かなようである。

 ハップマップや医学での知見よりは、スケールを小さく見積もらなければならないので、それは物理学的見解を持たなければならないが、これから先、短い時間で大きな進展があるかもしれない。


 植物を深く知ることによって生態系の構造や進化の過程など、多くの知識を得るというのはよくあることであるが、たとえ非線型的で解明するのが難しい生物であっても、ごくありふれた単純な(分子ベースでの)構造が、生物進化の過程を決めている、ということがこれまでの生命工学では計算によってわかっているが、どうやら、生物学上の見解によっても得られそうであるのは、興味深い話である。
posted by 藤次郎 at 08:48| Comment(0) | TrackBack(0) | frontiers | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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